2013年12月16日月曜日

師走の東銀座で「仮名手本忠臣蔵」_歌舞伎座十二月大歌舞伎

お友だちのガスパママさんの「十二月の歌舞伎座どおよ?一緒にいかない?」とのお誘いに、ダメ元でうちの受験生につぶやいてみたところ、「別にいーじゃん、行ってくれば!」とのあっけないOKが出まして、…ふふふっ、黒虫モードとなりました。そんなわけで、本所の吉良邸襲撃記念日(12月14日…正確にはその翌朝)の前日にあたる13日に、十二月大歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』を通しで観劇するため日帰りツアーを決行いたしました。

ガスパママさんと朝早い「はやぶさ」に乗って、やってきました東銀座。るんるん。師走と言えば『忠臣蔵』でしょう!歌舞伎なんだから、やっぱりやっぱり『仮名手本忠臣蔵』でしょう。

通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)

【昼の部】

 大 序 鶴ヶ岡社頭兜改めの場

 三段目 足利館門前進物の場

  同  松の間刃傷の場
 
塩冶判官   菊之助
桃井若狭之助 染五郎
足利直義   巳之助
顔世御前   七之助
高師直    海老蔵 ※三津五郎休演のため代役
 
 四段目 扇ヶ谷塩冶判官切腹の場

  同  表門城明渡しの場
 
大星由良之助 幸四郎
塩冶判官   菊之助
顔世御前   七之助
斧九太夫   錦 吾
薬師寺次郎左衛門 亀 蔵
原郷右衛門  友右衛門
石堂右馬之丞 染五郎   ほか

 浄瑠璃 道行旅路の花聟
 
腰元おかる 玉三郎
鷺坂伴内  権十郎
早野勘平  海老蔵


昼の部の眼目は、海老玉の「道行」というところでございましょうが、若手中心の「忠臣蔵」の通しということで、今後の歌舞伎会の行く末をこの年末興行で見据えておきたいということも含め期待に満ちた公演です。

「大序」からの始まりで、例の( ̄^ ̄)えっへん人形がでてきて長々と口上を述べますが、役者の名前を全部読み上げるので、拍手の沸き方で今日の客筋が分かります。やはり海老玉目当てのお客さんが多いご様子、また高麗屋、音羽屋…、そして七之助丈の時もわっと拍手が鳴りました。人気出て来たなー。
代役(三津五郎丈の完全復活を心より祈念しております!!)の海老蔵の高師直は、めったにみれない珍しい配役だけにちょっと楽しめました。セクハラにパワハラ…ちょっとコミックぽくなって、イヤ〜な人物像は薄れた感がありましたけども、奮闘してましたネ。染五郎の若狭之介の生意気っぷりは私的にグッジョブだったのですが、今回の演目では二段目をはじめ加古川本蔵に関わる筋(八・九段目)が省略されているので、伝わりにくいかもですね。

三段目の松の廊下、四段目の判官切腹は音羽屋型で菊之助ですが、折り目正しく丁寧に演じている感じが好感。涼しげなお殿様の気品がありました。命が絶えて前屈みに倒れると、ずらーと並んだグレートーンの裃姿の諸士を背景に、判官の死装束の白に、鬘の黒と濃いめの青い月代、そして腹切刀についた赤い血糊が映え、舞台の中心点となる構図の美しさに目が奪われました。後方中央のお席だったので余計に印象的に見えたのかもしれませんが、洗練された造形美を感じました。
しかし…んむむっ?あれ、菊之助さん太りました?結婚太り?貫禄ついちゃったな。女形大丈夫かな?

高師直は、大序と同じノリでなんだかコミック。(富十郎の師直は嫌みたらしくて、口跡も良くて良かったなー)と思い出されました。やっぱり難しいですね、この役は。

そして、七之助の顔世御前はきれいでしたし、未亡人となった女性の精気を消した演技は良かったと思います。数珠を持った指が繊細でほれぼれ。とてもリアル男性の指とは思えない!(思わずガスパママさんに双眼鏡を回した虫六です)

城明け渡しはリストラ決定でどう処理するかの全体会議。筋的に分かりやすく進行。それにしても、ここってお城と言うより江戸上屋敷なんだよね〜、この大広間はスケートリンクのように広いけども…。ま、いいか、歌舞伎だから。それから、大石力弥は夜の部の児太郎よりも、昼の部の右近の方が良かったです。

そして、前半のお待ちかね、海老玉の「道行旅路の花聟」…。
そのオーラ全開の絵になる舞台にうっとり。この演目だけで、分厚い写真集ができるんでないですか?と思うくらい、どこをとっても決まってるし、美しすぎる。
世話女房気取りの玉三郎のお軽が本当にかわゆく、初々しく、水もしたたる近習侍の海老蔵・勘平の色男ぷりが、完璧、か・ん・ぺ・き・です。手と手をとる所作が何度も出て来るんですが、これがまた艶めかし…。
こ、これは生写真を買わねばなるまいよ、とぜいぜい息を切らして3階ロビーに駆け込みましたが、なんと、まだ売り出し前でありませんでした。 ||Φ|(|゚|∀|゚|)|Φ|| この欲求不満をどこにぶつけろと…わ〜〜ん。


お昼は、松屋銀座店の地下でゲットした、ゆしま扇の観劇弁当を。笹の葉寿司もついて、これはあたりでしたね。ふたりで食べると美味しいね。

通しなので昼の部と夜の部の間に、歌舞伎座売店をひやかして、虫六子のお土産にスヌーピー&歌舞伎座コラボグッズを購入。場内店限定なので若干奮発していろいろ買ってしまいました。気のせいか幕間時間が短い感じだったので、ここでお土産なども先に買うことにして、紙袋を抱えて、夜の部の席に。


な、な、なんと、花道から3・4列目の一番前なのだ!あわわ。役者のみなさん至近距離ですよ…。

【夜の部】

 五段目 山崎街道鉄砲渡しの場
     
  同  二つ玉の場
 
 六段目 与市兵衛内勘平腹切の場
  
早野勘平   染五郎
斧定九郎   獅 童
女房おかる  七之助
母おかや   吉 弥
判人源六   亀 蔵
千崎弥五郎  高麗蔵
一文字屋お才 萬次郎
不破数右衛門 彌十郎


 七段目 祇園一力茶屋の場
 
大星由良之助 幸四郎
寺岡平右衛門 海老蔵
竹森喜多八  松 也
富森助右衛門 廣太郎
大星力弥   児太郎
斧九太夫   錦 吾
赤垣源蔵   亀三郎
遊女おかる  玉三郎

 十一段目 高家表門討入りの場

    同 奥庭泉水の場
    
    同 炭部屋本懐の場
 
大星由良之助 幸四郎
原郷右衛門  友右衛門
奥田定右衛門 宗之助
矢間重太郎  竹 松
富森助右衛門 廣太郎
大星力弥   児太郎
竹森喜多八  松 也
小林平八郎  獅 童

五段目は定九郎が獅堂でした。「ごじゅうりょう」もいまいちドスが利いてない感じで、前の脇から観たせいか、鉄砲で撃たれて口からこぼれた血糊で足が染まるところもよく見えず、なんとなく間がしゃんとしていない感じでした。もっとたっぷりやっていいけどね。ニンの役とは思いますので、ぜひはまり役にしてください。

染高麗の早野勘平は、デフレ・スパイラルのようにツキが離れて行く男の憐れが哀しかった。かわいそすぎでしょ。四段目の判官も切腹のあと(死んだ役なので)身動きしないでうずくまって居なくてはならないのがとても辛いそうなのですが、勘平も「もしかしたら自分が舅を殺したかもしれない」と自分を苛み、おかやに責め立てられる間も顔が上げられなくなって堪える場面は、役に入り込めばなおさら、その精神状態で切腹まで持って行かなければならず、そうとうしんどい役なのでは…と思いました。断末魔に疑いが晴れて連判状に血判を押せたのは救いですが、いずれ、この人たちみんな死んじゃいますから。勘平ここで死んでも「先に地獄で待ってるぜ」なんですよね…。なぜ簡単に命を無駄にするのか、江戸の人。そんなわけで(?)、みんなが海老蔵を観に来ていても、私は染五郎の勘平には1票です。(来年はセブンと「桜姫東文章」をよろしくお願いします。)

七之助のお軽も可愛く、何も知らずに駕籠で運ばれていくのがまた憐れ。
萬次郎丈の一文字屋お才は好き!良い存在感…満点ですね。

七段目の祇園一力茶屋の場。やっぱり凄いね玉三郎は…(ため息)。前段があるのですが、登場したとたんに舞台の緊張感が変わります。大石とじゃらつく場面、平右衛門と兄妹の甘えたような関係を垣間見せる場面、どうしてこんなに可愛らしく演じられるんだろう。胸がきゅんとしちゃったよぅ。役者の容姿の美しさということではない本質的な可愛さを感じて、うわ〜玉三郎って60歳過ぎたんだよね…と、やや不敬なことまで考えてしまうくらい凄い演技だった。これが歌舞伎の面白さなんだろうな。
相手役は海老蔵の寺岡平右衛門ですが、そうとう頑張っていたと思うし、舞台オーラもあるし、演技が悪くもなかったけれど、玉三郎の役者が3枚も4枚も上で、それに助けられていたという感は否めない感じでした。でも頑張ってほしいです。
幸四郎の大石も良かった。聞いてはいましたが、この役ははまり役ですね。人物の大きさと色街での遊び慣れた粋な感じが凄く自然に滲み出ていて、上手だなと思いました。

鴇色の内壁で囲われた遊郭の風景、歌舞伎が残っているいるからこそ、伝わっている風俗風景なんでしょうね。

討ち入りのチャンバラは、竹森喜多八の松也と小林平八郎が獅童。
役者よりも目を奪われたのは、新歌舞伎座の雪を降らせる装置…!コンピュータ制御と観ますが、必要な場面に必要な量の紙吹雪を降らせて、場面終了で、ぴた!と停めてました。恐るべし歌舞伎座。

それにしても、絶好のお席のせいもあるけれど、特に夜の部は満足度の高い舞台で、1年の〆に相応しい芝居納めとなりました。



せっかくだから場内の食事処で食べて見ようということになり、ネットで予約しようと思ったら1週間前ですでに受付終了していて、さすがに即日完売の公演だよとびびりましたが、当日申し込みで受け付けていただけまして、花篭の幕の内弁当(2100円)にありつくことができました。すみません、食堂内の写真を撮り忘れてしまいました。
ゆっくり食べていたら、あっというまに30分の休憩が終わって、慌てて暗くなりかけた客席に戻るということにもなりました。
やっぱり、舞台のバックヤードや装置関係が最新になって場面転換の時間が短縮されているのかな?どうも休憩時間が慌ただしく思えるのですが…。

夜の部の最後の休憩に、「ここは鯛焼きは外せないよね」とふただび3階に登っていくと、すでに鯛焼きは売り切れで…、かつ、今日はなかった生写真コーナーがセットされているのを発見!!!!!!!うわ、明日から売り出しですか〜〜〜〜〜〜!!!!残念すぎる…。ダブル・ギャフンでありました。

いつもはけっこう前の方で観ることが多くて客席全体をあまり気にしませんでしたが、昼の回は前から15列目の中央通路沿いだったので、お客さんの出入りが見えるのでした。そこで気になったのは、歌舞伎のお客さん高齢化が夥しくないですか?ってこと。ガスパママさんと「私ら全然若い方だね」とちょっと戸惑いました。
確かにこの真冬にノースリーブのドレスを召したセレブちっくなご婦人なんかも若干いらっしゃったのですが、7・8割は60代〜90代って感じですね。空席あるなと思っていたら、杖をついて時速500mくらいで歩く老婦人や車イスのお年寄りが暗い場内を係の人に介添えされて入ってきたり、30分休憩のお弁当食べたあとで病院で処方されたクスリ(しかも大量)を飲んでいる方…、(ここは病院の待合室ですか…?)という感じでした。
もちろん、最新のバリアフリー構造の建物でその辺りは松竹さんも抜かりないのだろうと思うし、「歌舞伎って年をとっても楽しめる娯楽だな−」と脳天気に思うこともできるのですが、これでいいのですか?本当に?!
歌舞伎座一極集中のご馳走天こ盛り興行で、さよなら公演以来のインフレ価格チケットも見直されないまま、余裕のあるお年寄りだけが楽しめる娯楽となってしまって、歌舞伎の未来は本当にあるのかな?若手の役者がいろいろチャレンジしても、この仕組みの中ではやっぱり客層の拡大は図れないよね。松竹さんがちゃんと考えないと…と。
勘三郎丈の遺作のシネマ歌舞伎やDVDで儲けるのもけっこうだけど、彼が歌舞伎の将来のためにやろうとしていた遺志を歌舞伎界全体で引き継げるように、根本的に取り組んで欲しいものです。

なんてことも思いつつ、今年の観劇納めとなりました。今年1年の素晴らしいお芝居に感謝。来年も楽しく芝居見物できますように!歌舞伎の神様よろしくお願いします。
仁左衛門丈、三津五郎丈、福助丈が元気になって、一日も早く舞台に戻って来ることをお祈りしつつ…。

4 件のコメント:

  1. お腹いっぱいな演目で、ええですな〜!
    (でも、やっぱり、高過ぎると思うわ。幕観ダケじゃつまんないし)
    ところでいつも思うんだけど、あの休憩時間で絶対あの弁当食べらんないって思うよ。で、勿体ないからつい速攻かき込んでしまい、後でもたれるのでこっそり胃腸薬をチロッと……年取るとね、色々必要なんよ(爆)

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  2. やー待ってました!記事アップ♪
    これはまたすごい情報量なのです。
    今朝だけでは読み切れず^_^;
    通勤の車の中、携帯で続きを読んだのだ!
    しかも玄人はだしのコメントに、思わずにやり。
    Dも「その道の解説者になればいいんじゃね。」と。
    それはさておき、大変お世話様でした~♪
    虫六殿のご尽力により、得難い座席での海老玉観劇!
    とても感激でした~!!楽しかったね~!
    またいつかご一緒したいのです。むふ。
    若い頃嵌った玉三郎の魅力、すばらしさを再認識して再び嵌りそうです。もちろん海老蔵も!
    あれ、撮影時にお醤油をよけようとしたわたくしの手がちゃっかり写ってるのですな(*_*;

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  3. >Kurokitiさん

    おかげさまで腹いっぱい胸いっぱい堪能させていただきました。
    1年がいい年だったとなんとなく思えてしまう、〆の好興行でございました。
    そうねぇ、そろそろ身体もボロくなってきていて、ヒトのこと言ってられないよね…。あの歌舞伎座シートで薬を飲んでいた人相当数するんだろうな。(爆)

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  4. >ガスパママさん

    いやいやお疲れさまでした〜〜〜〜〜〜!!!!
    日帰り観劇ってけっこう楽しいね。1年に1度くらい定例にしますか?!盛り上がるし。
    しかし、今回のレポートは、いつもは昼・夜を分けて書いているところを一括してしまったので、ちと長大すぎましたな。最後まで読んでくださってありがとうございました。
    充実観劇ばかりを露出しているので、虫六はノー天気と思われがちですが…(爆)
    それにしても、玉三郎はやっぱり凄い!久しぶりで観て、ノックアウトでした。海老蔵、染高麗、セブン…がんばっていましたネ。…やめられないねぇ。

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