2014年11月23日日曜日

石川さゆりコンサート2014

演歌歌手という枠組みを超えて、石川さゆりさんが日本の当代女性ヴォーカリストの中でもピカイチの実力と思う人は、虫六だけではないでしょう。

いわゆる歌謡曲だけでなく、民謡、浪曲、俗曲ばかりでなく、瞽女唄や、はては、バナちゃん節まで、日本の芸能のすみずみにまで目をくばり、しっかり勉強して、自分のステージに取り入れてきた石川さん。以前から、1粒で2度美味しいアーモンドグリコのようだ(←古っ!)と称されるそのステージを1度見たい、行ってみたいと思っていた(ホント、明治座のスケジュール探ったりして)のですが、このたび7年ぶりにS市に来てくださいまして、晴れて足を運ぶことができました。


ステージ全体を楽しむため、2階席最前列です。
2部構成で、ツアーのテーマは「Visit Japan 〜日本を訪ねる〜」。

【第一部】
・能登半島
  (濃紺にあざやかな菊模様の振り袖で登場!日本各地を巡ります…、北陸・四国・大阪です。)
・波止場しぐれ
・夫婦善哉
  (3曲たっぷり聞かせて、早変わり!↙)
・ウイスキーが、お好きでしょ
  (今度は雰囲気変わって黄色に黒地の波模様。タイガーのような柄だった)
・ふじの山
  (ここから唱歌を3曲。唱歌といえば小沢昭一さんですが、全く雰囲気違いますね。アレンジも変わってて面白かった。)
・ずいずいずっころばし
  (お客さんに手を出させてやってました)
・かあさんの歌
  (この歌は、実家のお母さんのアカギレ話などしながら思い入れがあるそうな…。日本を訪ねるって、日本人の心や文化を訪ねるってことですね、当然ながら)
・ヤットン節〜トンコ節
  (色物芸の俗曲です。うまいわー、本領を感じる。)
・お富さん
  (民謡コーナーに突入)
・ロック・ソーラン節
  (近頃は奥田民生や椎名林檎ともコラボレーションしている石川さん。今年は野外フェスにも出演したということで、会場にもロック調の合いの手を要求!場内平均60~70才か?と思われる高齢客層でしたが、みなさん元気に♪ソーラン、ソーラン。ハイッ、ハイッ!)
  (民謡コーナーでは、会場のリクエストに応えて、会津磐梯山や黒田節なども即興アカペラで歌ってくれました)
浜唄
 (この歌は、東日本大震災の慰問で訪れた東松島の人たちとの交流から生まれた曲で、地域に伝わる「獅子舞」を復興したいけれど、浜甚句を歌える人がいないとの相談があり、地元に歌える古老を訪ねて、芸の掘り起こしをしたそうなのです。津田さんというおじいさんが聞かせてくれた歌は、自在で(聞くたびに歌詞が変わったそうな( ̄◆ ̄;))、味のあるとても良い歌だったのですが、それを石川さんがNHKなどの歌謡番組で披露したいと思うと、マイナー過ぎて難色が示されるので、どうしようかと悩んでいたら、作詞家のなかにし礼さんが、それなら歌謡曲の中に挿入曲として入れ込んで仕立てたらみんなに覚えてもらえるのではないか?と作ってくれた1曲だそうです。前奏には、津田さんのオリジナルの一節も流れて、石川さんの思い入れが伝わってきました。)

【第二部】
・落語『芝浜』より
  (後半は、いきなり落語です。去年の明治座本公演用に「歌芝居 芝浜~おんなの心意気~」をお作りになった際、自分が落語をみせて歌芝居に入っていける演出にしたいと、立川志の輔師匠に手ほどきを乞うたとの落語。人情噺のさわりを披露。今度は落語か〜、果敢だなー!がってんがってん!を連呼していました。そして、その劇中のテーマ曲↙)
・紫蘭の花
・越前竹舞い
  (石川さんが大きな影響を受けた水上勉氏の小説『越前竹舞い』をモチーフに舞台化した際のテーマ曲。)
・名うての泥棒猫
  (今年4月にリリースした椎名林檎とのコラボレーションシングル。椎名とのコラボは今は亡き十八代目中村勘三郎の遺言(アドバイス?)だったと、テレビの対談で言ってましたね。)
・暗夜の心中立て
  (こちらも同シングル。天城越えロック版か?)
・津軽海峡冬景色
  (ここから3曲はたっぷり!石川さんが特に大事にしている3曲なのかな。客席の満足度もぐーんと上がっていく感じです。この声、どこから出てくるのか〜って感じです。)
・風の盆恋歌
・天城越え
  (虫六的には、天城越えを生で聴けたというだけで元は取れたといいますか、満足しました!)

【アンコール】
・朝花
  (しんみり (*´ェ`*) この歌を最後って決めているのかな。)

いわゆる地方公演のプログラムセットなので、舞台構成は明治座の本公演のようには凝れないかもしれませんが、存分に楽しめました。MCまでお一人でやっていて、それがこなれていて嫌みがなく上手でした。
場内には、虫六の母世代を中心として同世代もけっこういたかな。女性が7割くらいでしょうか。立ち見まで完売したらしい。ファンのみなさん、7年待ってましたから。
虫六の後ろに二十歳くらいの若い女性がいらっしゃいましたが「重い歌をいかにも重そうに歌う歌手はいっぱいいるけれど、石川さんの歌はさらっと歌ってもとても心がこもっているのが伝わってきて大好きです」と話してました。(そうだよね、歌のテクニックに加え、解釈が深いんだよね…と、心で相づち)お嬢さん、コンサート終わる頃には感激で号泣してましたな。

また、来年も来てくれるといいなぁ。今度は相馬の母を誘って見せたいです。



2014年11月19日水曜日

ヴェーセン 25周年ジャパンツアー in 山形

家人Tと、スウェーデンからやってきたアコースティック・アンサンブル「ヴェーセン」のコンサートに行ってきました。

ヴェーセンは、スウェーデンの民族楽器ニッケルハルパ奏者のウーロフ・ヨハンセン、ヴィオラのミカエル・マリーン、ギターのローゲル・タルロートの3人によって1989年に結成されたグループです。これまで13枚ものアルバムをリリースし、スウェーデンではグラミー賞を受賞するほどの実力派で、日本には2004年と翌年に来日を果たし、多くのファンを魅了しました。2006年には日本の無印良品のBGM8のために楽曲を提供しているので、どこかで聞いている人もきっといるはず。

山形公演の会場は、山形県郷土館「文翔館」(旧県庁舎及び県会議事堂)。大正5年に建てられた英国近世復興様式のレンガ造りの建物です。大正初期の洋風建築を代表する建造物として、国の重要文化財に指定されているそうです。

北欧の伝統音楽ってどんなものぞ?と思いましたが、軽やかで柔らかいアンサンブルで、気持ちのいい音楽でした。この建物にもとてもマッチしていて、心の洗濯ができました。

ヴィオラってとても自在に音を繰り出す楽器なんだというのも新鮮でした。それを民族楽器のニッケルハルパの、明るくて、共鳴を纏った華やかな音が彩りを豊かにし、ギターが全体を締めている感じかな。田舎の結婚式にいるような、ついつい、ステップを踏みたくなるようなハッピイな音楽なんだけど、現代的な感じもあって、不思議な音楽体験でした。

ヴェーセンの3人は、それぞれ身長が190センチ以上という大男ぞろい。(バイキングの末裔か?!)

ニッケルハルパ。
この楽器もはじめて知りました。変わった楽器もあるものだ。
バイオリンみたいな弦楽器かなと思うと、ネックの下にキーがついていて、それを持ち上げるようにして音階を決めるそうです。演奏をする弦は4本なんだけど、他にも弦が張ってあり、それは共鳴弦で、教会で弾いているような自然な残響感があるそうです。抱えるように支えて、短い弓で弾いていました。

この楽器の歴史は古く、中世の遺跡(世界遺産のゴットランド島にある教会)のレリーフに、ニッケルハルパを演奏する人の姿が彫られていたり、

同じく中世の教会の壁画にも、やはりニッケルハルパを演奏する天使が描かれているそうです。

ツアーはこの先、神戸・名古屋・東京・福岡をまわるそうです。
まだ、当日券もあるそうな。おすすめです!

【おまけ】
せっかく山形まできたので、そばを食べて帰りました。
今日は、庄司屋さんの桜エビ天そば(温かいやつ)。山形は寒かった〜!


2014年11月17日月曜日

出張帰りに染高麗の「勧進帳」

12日、東京出張がありまして、午後3時に要件が終了。つい、ふらふら〜っと木挽町に足が向いてしまいました。

お、やってるねぃ。歌舞伎座。
今月は、初世松本白鸚三十三回忌追善公演の吉例顔見世大歌舞伎であります。
なにしろ話題は、市川染五郎丈が「勧進帳」の弁慶を初役!
これは、見届けなければなるまい…つわけで、幕見に並ぶことにしました。平日なので、狙い目と読んできたのよね。ふふふ。

幕見席。すでにチケット売れていて、2列目になっちゃいましたが。真ん中寄りゲット。
が!うぬぬ、幕見だと花道七三しか見えんかー( ̄◆ ̄;) 六方が…。誤算だったか。

(あ、幕見のチケットの売り方変わったのでしょうか?夜の部の「鈴ヶ森」の売り出し開始後だったせいか、4階で買ってくれと。4時までに集まってくださいと解き放たれ、時間になって4階に戻ると、そこで順番に整列させられ入場…と。ずっと並んでいるより時間が有効に使えて良いですけどね)。

とりあえず夜の部は三本ですが、本日は日帰り出張なので幕見で前半の二本を拝見。

平成26年度(第69回)文化庁芸術祭参加公演
初世松本白鸚三十三回忌追善公演
吉例顔見世大歌舞伎

一、御存鈴ヶ森(ごぞんじすずがもり)
   
 幡随院長兵衛  松 緑
 東海の勘蔵   彦三郎
 飛脚早助    権十郎
 北海の熊六   團 蔵
 白井権八    菊之助

二、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
   
 武蔵坊弁慶    染五郎
 源義経      吉右衛門
 亀井六郎     友右衛門
 片岡八郎     高麗蔵
 駿河次郎     宗之助
 常陸坊海尊    錦 吾
 太刀持音若    金太郎
 富樫左衛門    幸四郎

(三本目は、「義経千本桜」の「すしや」でしたが、涙を飲んであきらめました。)

高麗屋にとってはお家芸の弁慶役。染五郎丈には、長年の憧れの役であり、出来て当たり前の必修科目らしいのですが、なんと41才にして初役とな。若い時に1回くらいやってみたりしなかったというのが、この役に対しての染五郎の思いの強さが伝わってきます。満を持しての初役なんですね。

なにしろ、太文字の立役というよりも、スッキリした二枚目って言う方がイメージにあう染高麗ですから、粋な感じの役柄とか、色悪なんかにニンを認めてしまいますが、こういう役しなければいけないのですね、高麗屋ですから。
これまで、がんばってんなーって感じるくらいの立ち役への挑戦もこの日のためだったのですね。


それで舞台はどうだったかというと、期待以上の上出来だったと思います!(私が言うのも僭越ですが)。

最初の登場は花道で、義経一行の殿で出てきますが、虫六幕見でしたので花道の奥の方の様子が分かりません。その前に舞台には幸四郎の富樫がいて、ただならぬ存在感だったので、なんだか口跡のよい太い声が聞こえてきたので、幸四郎がセリフを言っているのか?と思ってしまったのです。ところが、はっと気がつくと花道のかろうじて見える端っこに、染高麗の弁慶の頭が見えて、セリフを言っていたのです。姿でなく、口跡が心を捉えました。(全く個人的な感慨ですが、この現れ方は一生の記憶に残る!)

父の幸四郎を富樫、伯父の吉右衛門を義経に配した、重厚な舞台ではありましたが、しかし、染五郎の弁慶は押しつけがましさない、とてもスッキリしているけど華奢ではない存在感で好感が持てました。富樫との問答も緊張感ありましたし、なにより幸四郎の富樫が慈愛というか深みがあって良かったな。また、普段は絶対に見れないというご馳走感たっぷりの吉右衛門義経も気品があって、弁慶はあくまで家来という主従関係が無理なく伝わってきて、芝居が分かり易かったです。

延年の舞もキレの方が目立って踊りのうまさがありましたが、楷書の芸っていうのかな。これから何回も回を重ねて円熟味をつけていくんでしょうね。虫六は、たっぷりお酒を吞む場面で、酒の匂いを感じさせるようにふぅ〜っとやるところが好きなんだけど、そういうのは型どおりでしたね。

引っ込みの六方は、七三で見栄を切るところしか見えなかった(カッコ良かった!)のですが、てんてんてんという六方を踏む音も耳だけで味わい、心の目で拝見しました。きっと立派な引っ込みだったことでしょう。花道の生写真が欲しかったのですが、これも幕見なので断念 (ノд・。) 

幕見席からは、新しい歌舞伎座の舞台が一望出来るのですが、染高麗の弁慶はその焦点にいて、確実な存在感を持っていました。歌舞伎の新しい時代の始まりに立ち会ったと言う感慨がありました。

怪我をしたときは本当に胆が冷えた染五郎丈。でも、しっかり復帰して、こんな弁慶をみせてもらって嬉しい限り。これからの歌舞伎界をリードして行って欲しいと思います。


「勧進帳」が終わって7時、地下の木挽町広場に行ったらすでに片付け終了。
ここは毎日すっからかんになるんですね。不思議ー!

2014年11月15日土曜日

自分に似ている人

松の会の演奏会が終了したあとは、お楽しみの食事会なのでした。

 あ、これ会場だった料亭・赤坂金龍の本日のお品書きです。

いつも、この食事会を楽しみにしているのは、お料理が美味しいのと、松の会の皆さんとお話が出来るからです。で、今日はお向かいに圭哥さんことAさん、圭楓さんことYさん、お隣は露生さんことOさんという黄金トライアングル。

 先付 胡桃どうふ。
で、今日もいろいろな楽しい話題がありましたが…。
ひとつ、虫六積年のつっかえが取れた話がありました。

前菜 紅葉南瓜 秋刀魚棒寿司 慈姑煎餅 鰻カステラ 餅銀杏阿部川
それは、虫六が誰に似ているかという話。
世界には、自分にそっくりの人が3人いるという話がありますが…。誰でも、誰かに似ているねなんてことを言われることはあると思います。でも、その誰かによっては微妙…ってこともありますよね。

お椀 蕪菁真丈 嵐山紅葉
で、最近、虫六に似ているらしい人は、姉弟子Cさん周辺では、濱田岳クンだって言うんだね。
…どこが似ているのか、ぜんぜんピンと来ませんが。小柄でぷくぷくしているところか…?おでこなところ?ふーん、虫六子も濱田クンは好きだが母とは似ていないと申しております。
っていうか、濱田クン、男子だし。

造り 鮪 鯛 烏賊 山葵醤油
で、で、またその話をされたので、うーむと納得できないまま、
「私、若い時はよくジュリエット・マシーナに似てるって言われました」とカミングアウトしたところ…。

Aさんがすかさず、「あぁ、なんとなく分かる。でも、それ嬉しくないわね」と!
 
 焼き物 銀鱈洋風焼 べったら大徳寺
(うわ、そうなんです。なんか、微妙だったんです!)
Aさん「だって、彼女、不幸顔だもんね。あなた、そうじゃないわよ。」
(うをー、うをー、それだ!それだったんだ!)
Aさん「いや、印象的な役がそうで不幸顔のイメージがついたのかもしれないから、素顔の彼女はわからないけどね。」

 煮物 鰊昆布巻 里芋 南瓜
そうなんですよ。実際は、フェリーニ監督の奥さんだし、聡明な方らしいし、似てると言われれば光栄でこそあれ、文句をいう筋合いはないのですが…。なーんか、ひっかかるものがあったのよ、おれ。(しかも、家人Tを含め、数人の男子に言われておりました。たぶん褒めてくれたつもりで。)

油物 椎茸双身揚げ 海老尾立揚げ
そんなわけで、このん十年氷解しないままだったこだわりを、この日Aさんが打ち砕いてくださいました。でも、ジュリエット・マシーナさんは好きですよ。彼女が出演した映画も!

ま、歌舞伎座界隈で、舞台をバックに筋書きを撮っている濱田岳似のおばさんがいたら、そいつが虫六ですってことで。

食事 麦とろ 香の物
こんだけ食べても、トロロご飯はお腹に入ります。きっと擂り鉢ですりすりしているな、このトロロは。全体に仕事がしてあるおいしいお料理でした。さすが、赤坂の料亭は違いますね〜。

あ、フルーツ撮り忘れた!

2014年11月9日日曜日

十一月新派特別公演

さて、今年のお浚い会を無事(でもないですが)乗りきりまして、自分へのご褒美に、ひさびさ黒い虫六、新橋演舞場に姿を現すであります。ほっほー。

いつもとなーんか違うなぁと思ったら、櫓が立ってないのだ。歌舞伎じゃなくて新派だから立たないのですね。ある意味、新鮮。…そう思って振り返ってみると、新派の舞台ってほとんど見た事ないんだな、初めてかもしれず…。

なぜ、新派の舞台を見に来たのか?それは、十七世・十八世の中村勘三郎追善公演で、中村屋の若太夫兄弟がご出演だからです。追善公演は10月歌舞伎座でも行われていましたが、次の上京は11月1日のお浚い会と決まっていたので、狙いを定めてのチケ・ゲットであります。

◆十一月新派特別公演


平成26年度(第69回)文化庁芸術祭参加公演

一、鶴八鶴次郎

   鶴賀鶴次郎 : 中村 勘九郎

   鶴賀鶴八 : 中村 七之助

   興行元 竹野 : 立松 昭二

   弟子 鶴子 : 瀬戸 摩純

   番頭 佐平 : 柄本 明

二、京舞
  ―劇中追善ご挨拶申し上げます―

   片山春子 : 水谷 八重子
   杉浦 : 近藤 正臣

   おきく : 高橋 よしこ

   松本佐多 : 伊藤 みどり

   おまき : 青柳 喜伊子

   まつ子 : 石原 舞子

   片山博通 : 中村 勘九郎

   片山愛子 : 波乃 久里子

 劇中に追善ご挨拶があり、毎回ゲストが変わります。

■日程
 2014年11月1日(土)~25日(火)

昼の部 11:00開演

夜の部 16:30開演

そんなわけで、追善公演の演目は、芸もの二題。
『鶴八鶴次郎
』。鶴次郎(勘九郎)と二代目鶴八ことお豊(七之助)は、新内の相方で、若いながらもそれぞれ名人の呼び声高い人気者。舞台のこととなると、互いに譲らず喧嘩がたえない。っていうか、鶴八にご贔屓の旦那ができると鶴次郎の機嫌が悪くなり、ついつい難癖つけて意地の張り合いが…、というめんどくさい関係。なんだかんだでお互いに好いていることが分かり、夫婦になる約束をして、師匠でお豊の母である初代鶴賀鶴八の名のついた寄席「鶴賀亭」を作ろうと心をひとつに。しかし、その寄席を作る資金を贔屓の旦那に借りたことが分かって、鶴次郎はまたまた嫉妬で逆ギレ…、愛想を尽かしたお豊はコンビ解消を言い渡して、旦那のもとへ、三味線弾きをやめてしまう…。

難しいなー、芸人は。互いが才能を認め合う天才どおしなのに、それが発揮できない、芸を潰してしまう方へ方へと向かってしまう、依怙地さ。もったいないっていうか、犯罪行為でしょ。男の悲哀の前に、どうにかしろよ、そのめんどくさい性格を!と突っ込みたくなった虫六です。

でも、寄席が華やかな頃の楽屋と、落ちぶれた芸人が行き着く場末感、大正時代の芸能界ってこんな感じだったのか。新内の全盛期でしょうし。このお芝居は川口松太郎が第1回の直木賞をもらった小説の舞台化らしいです。鶴次郎の役は十八代目も務めたとのこと、そうでなくても勘九郎がやると被ってしまいますけどね。

『京舞』の方は、三代目井上八千代さんをモデルに、北條秀司さんが書かれた脚本とのこと。京舞の家元の剛胆なキャラクターが面白い。まさに大刀自って感じ。これは、もとは十七代目が片岡春子役をやることになっていたのが、体調不良で降板することになり、水谷八重子(当時良重)が急遽代役をすることになったという曰く付きの役だそうです。

舞台が始まったときは、新派って女優がいっぱい出るんだなー、それにしても全体的に老齢化が…と、ちいと戸惑いましたが。京都の芸者衆の粋な風情は、ぽっと出の女優さんには表現できないわけで、次々出てくる洋髪に着物のご婦人方のカッコ良さに次第に目を奪われました。そして、大刀自に振り回されるお芝居が面白いこと…。新派、食わず嫌いだったかもしれません。波乃久里子さんも大奮闘。若い頃の役は…若い役者を使ってもありでない?と思わなくもありませんでしたが、後半はきりっとしていかしてました。勘九郎と七之助の新派出演は心強かったでしょうね。

虫六が見た日の追善挨拶のゲストは竹下景子さん。
白っぽい山霞の模様の着物姿がすごく清楚でステキでした。思い出話も面白く、頭のいい人だということがよく分かる。竹下さんもお三味線やっているんですよねー。

ロビーには、十七代と十八代の遺影が飾ってあり、思わず手を合わせてしました。
十八代を見送ってから、もう2年も経つんですね。本当にあっという間です。
でも、ふたりの息子は確実に大きくなっています。近くで見守っていてください。合掌。


2014年11月6日木曜日

松の会2014

11月1日、赤坂の金龍にて、「第14回松の会」があり、我が忠美恵一門も日頃のお稽古の成果を聞いていただきました。


虫六の出番は後半の2番目くらいで、出し物はこの1年お稽古してきました『鞍馬山』でした。
再三言い訳しておりますが、お仕事山場つづきでまったく暇なし。その状況で、朝早起きしての自主練…ではありましたが、前日の先生のホテルでの最後のお稽古で、やっとOKがでるというギリギリ感。っていうか、あのOKも先生のおまじないだったかも。
お三味線、人生の彩りのつもりが、ストレスになっております(爆)

で、ド緊張で本番がやってきまして。右にお唄の圭江先生、左に忠美恵先生、直矢さんと並んでくださいましたが…。(あれ、なんで先生、お三味線おいてんの?)

!!!!!!!!!!!!!!(゚ロ゚屮)屮

なぬー!前弾き、私ひとりでやるんですか!!
あー、そういえば大薩摩のときは確かに立てがひとりで弾いて、二枚目以降は三味線は膝にのせずに床に置いてました…思い出した。
思い出せば、先生「ここは貴女ひとりで弾くのよ!」とは言っていたけど、練習のときは先生もお三味線を持っていたので、このシチュエーションは想定外。脂汗が滲んできました。

「ハオー」の掛け声だけは先生が掛けてくださって、なんとかひとりで前弾き完奏。やったーと思ったら、緊張が持続できなくなり、合奏部分は音符があちこち抜けてしまいました。とほほ、せっかく覚えたはずなのに…。でも、何カ所かある独奏部分だけは立派に弾けたと、よしよしと先生に褒めていただき、モチベーションを明日につないだ虫六でした。

おわたー。

ところで、今回の『鞍馬山』は、虫六にとってはとっても勉強になり、かつ、とても好みの曲でした。
まずは、撥使いのコツのようなものが掴めた気がしたこと。これまで勘所をはずさないことにばかり気をとられていた私ですが、糸をビィンビィンならす感触がなんとなく身体に入って気がして、撥が、音を表現する上でとても大事だと理屈でなく実感できました。また、その上で勘所がばっちりあうと、倍音が増幅して、炎がめらっと膨らむような、ときにはアークが飛ぶような陶酔感がやってくるのですよ。これは、聞いている人より演奏している本人が一番強く味わう快感であると思っております。
そんなわけで、大薩摩、まだまだ奥深い。もっともっと上手になりたい。
次の課題曲も気になりますが…。

2014年11月4日火曜日

10月に読んだ本

2014年10月の読書メーター
読んだ本の数:2冊
読んだページ数:539ページ
ナイス数:34ナイス

不屈の春雷〈下〉―十河信二とその時代不屈の春雷〈下〉―十河信二とその時代感想
「イデアリストにしてリアリスト」と著者は書いていますが、肚芸の深い大きな役者だったのだなぁ、十河信二という人物は。新幹線開発の秘話に興味を持って読み始めたのですが、後編の大部分は満鉄や浪人時代の話、人生の終盤に国鉄総裁を引き受ける際の密約として、「広軌新幹線」の建設を取り付け、政治家に潰されないように策謀と大芝居でコマをすすめる様は、まるで「忠臣蔵」!後藤新平や千石貢など明治以来の広軌派の仇を討ち取った體に読めてドキドキしました。開業式に招待されなかった十河の肚にあった思いが伝わってきました。
読了日:10月31日 著者:牧久

ドミトリーともきんすドミトリーともきんす感想
高野さんのお久しぶりの新作は、朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹という日本の自然科学の礎となった大科学者たちの読書案内。若き科学者が学生寮「ともきんす」の母子を相手に、科学に詩が織り混じっているような不思議なやりとり。自己表現を殺して、漫画による実用書を目指したという高野さんの線は、強弱が付かない製図ペンで描かれたらしい。でも、基本的に定規で引いた形跡はなし。クールだけど、冷たくはない。やっぱり高野さんの世界になっている。トモナガ君の「滞独日記」を紹介したページの引用と挿絵は飾っておきたい。
読了日:10月5日 著者:高野文子

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